2019年09月16日
食と住に深く関わる企業であるクリナップは、現代における“食の大切さや役割”を、皆さまと共に見つめ直すことが大切だと考え、生活研究部門である「おいしい暮らし研究所」が中心となり、聖徳大学さま、武庫川女子大学さまのご協力のもと「キッチンから笑顔をつくる料理アカデミー」を企画、提供してまいりました。
ここでは、多彩な講師の方からいただいた貴重なご講義や実習の内容をお届けします。
講師:鞍田 三貴
武庫川女子大学准教授。管理栄養士。大学の栄養科学研究所・栄養サポートステーションにて栄養指導も行う。
(平成25年10月 講座実施時)
今回は、「食と健康」というテーマで開催された講義の後編を、WEB版として特別にお届けします。前編は「食事学」についての講義をご紹介しましたが、後編は「シニア世代の栄養管理」をトピックに3人の先生にお話しいただいた内容をご紹介します。
講師は、武庫川女子大学から福尾惠介先生、前田佳予子先生、鞍田三貴先生の3人。前回までにご紹介した福尾先生と前田先生の講義に続き、今回は鞍田先生の「健康維持のためのさまざまな基準について」の講義をお届けします。
私は、武庫川女子大学栄養科学研究所の1階に設置されている「栄養サポートステーション」で、主に病気の方の栄養支援をさせていただいています。病気をお持ちの方もそうでない方も、食べることは生きることですので、よりよく生きるためには食事が最も重要です。
日本人の死因の6割は、ガンを含めた生活習慣病です。平成24年9月に行われたシンポジウムで、日野原重明先生が「心と体は一体であって、体も心も習慣がつくる」と仰っていました。どのように食べて、どのように呼吸して、どのように休んで、どのように動いて……という習慣が大事だということなのだと思います。私の講義では、栄養管理の方法や味覚の不思議についてお話したいと思います。
最近はいろいろな民間療法やサプリメントがあり、テレビをつけると、インパクトのある宣伝が放映されています。そこで注意していただきたいのは、そのサプリメントなどが正しい方法で評価され、根拠が示されているかどうかということです。「100人に効きました!」という話があった場合、何人に試したのか。話をよく聞くと、3万人に試していたりするわけです。福尾先生の講義の中で、猿での実験のお話がありました。人でも観察しているところですが、結果はまだなのだそうです。売られているものが本当に人で証明されたものなのか、ということも注意してみてください。
アルツハイマーや認知症に関しては、多くの方が興味を持たれます。そこで最近話題になっているのが「核酸」です。ほとんどの生き物は細胞でできており、細胞からできているものには核酸が含まれています。核酸がアルツハイマー病遺伝子の働きを低下させるということで、核酸が多く含まれる食べ物が注目されているのです。核酸が特にたくさん含まれている食べ物は、サケの白子やビールです。ということで、白子を大量に食べてビールを飲んでいたらどうなるか。みなさんもご存知の痛風になってしまいます。食べ過ぎると本末転倒です。一部のデータから行きすぎた判断はしないように、華々しい体験談が紹介されているものに飛びつかないようにしてください。
根拠が確実に示されていることのひとつに、「老化」があります。まず骨密度が減り、それから脂肪以外の体重(骨格筋)が減っていきます。水分の量が減り、脂肪のつく位置が変わります。これは誰にでも起こる生理学的変化です。
代謝についての話ですが、1日のエネルギーのうちの約7割が、呼吸や体温調節、心臓を動かすときに使うエネルギー(基礎代謝量)です。これは絶対に必要なエネルギーです。残りは生活活動量といって、仕事などをするために必要なエネルギーです。そのほかには、消化吸収のために使われるエネルギーもあります。約7割を占める基礎代謝量を高くすれば、人はたくさん食べて元気に暮らせるということです。基礎代謝量が一番使われる体の部分は筋肉なので、筋肉をできるだけ落とさないようにすることが重要です。男性と女性の基礎代謝量の変化を見てみると、男女ともに加齢によって落ちていきます。それは、筋肉が減っていくからです。
最近では、カロリーを抑えた方が長生きできるともいわれていますが、摂取カロリーの一例として日野原先生の食事をご紹介したいと思います。
先生の朝食はジュースですが、オリーブオイルや大豆レシチン(タンパク質)を加え、しっかりとカロリーを摂取されていました。昼食は牛乳とビスケットで、こちらもかなりカロリーがあります。夕食はヒレ肉を週に2~3回食べて、残りはお魚を食べていたそうです。1日のカロリーを計算すると、1300kcalくらいになります。70~80歳男性の基礎代謝は約1200kcalです。この食事をしていたときの先生は100歳でしたので、タンパク質を中心にしっかり食べていたことがわかります。
筋肉量が増加した人と体脂肪が増加した人の体重当たりのエネルギー摂取量を見ると、筋肉量を保っている人は、やはりたくさんエネルギーを摂っています。それからタンパク質、肉や魚、卵もきちんと摂っています。高齢になっても、しっかり食べて運動することによって筋肉を落とさずに体脂肪を減らすことができます。高齢だからと諦めなくてもいいのです。
一体、何をどれだけ食べたらいいのか。自分にとって一番いい体重(適正体重)を維持しているということは、必要なカロリーを摂っているということになります。適正体重(標準体重)は、身長(m)×身長(m)×22で求められます。ただし個人差がありますので、おおよその目安だと思ってください。
食べる量についてですが、一番食べなければいけないのはフードピラミッドの一番下、面積が広いところにある炭水化物で、ご飯やパン、麺類です。お菓子も炭水化物に含まれるので食べていいのですが、ご飯をたくさん食べて、さらにお餅や羊羹も……ではなく、炭水化物から3~5種類のものを摂ってください。その次にしっかり摂るべきなのが、野菜や果物です。毎日絶対に食べていただきたいのは乳製品、大豆製品、肉類、卵、魚介類です。控えめにするものが、塩分や油、お砂糖です。ラーメンライスやうどん定食は、炭水化物が多すぎる上に、果物や野菜、大事なタンパク質が完全に不足しています。1食をうどん定食にしたら、そのほかの食事で不足しているものを補うように心がけてください。
食べることで幸福感を得ることができ、楽しい食事は気持ちを豊かにします。これは体を維持する以外のプラスの効果です。人は、おいしい味を舌で感じており、これを味覚といいます。味覚を鍛えれば、高齢になってもいろいろな味をおいしく感じることができます。しかし、噛まずに飲んでしまうような早食いの方は、味覚が鈍感になっていきます。常によく噛んでおいしく食べ、すべてのセンサー(苦味、酸味、塩味、甘味)を鍛えていただきたいと思います。
また日本人は、鰹と昆布の出汁に含まれる「うま味」を感じることができます。このうま味をアメリカ人に食べてもらうと、石けんの味という人もいます。甘いものはおいしいと感じても、うま味はおいしいと感じないのです。日本人は、昆布と鰹の独特のうま味をおいしいと感じられる、非常に特別な民族であるということに誇りを持っていただきたいと思います。こんなことを言ってはいけませんが、病院食がおいしくないという方がいるのは、出汁をきちんと取っていないからだと思います。
味覚の役割としては、体を維持する機能もあります。たとえば、塩分が欠乏しているような夏の暑い時期には塩水が欲しくなるし、タンパク質が不足していると、不足しているアミノ酸を手がかりに食べ物を欲します。過剰に食べすぎたものは、それ以上食べてもあまりおいしく感じません。
実は、味覚は高齢になってもほとんど変わりません。ですが、お薬は味覚に影響します。お薬をたくさん飲んでいる方、あるいは抗ガン治療をしている方、そういう方は味覚を感じなくなります。食べるということは生きるために絶対に不可欠であって、おいしいと感じられる限り命は安泰だと思っています。みなさんが持つ味覚を研ぎ澄ましていただき、幸福感が得られる食事をしていただければ幸いです。どうもありがとうございました。
[つづく]
「食と健康vol.2-実習編 体にやさしいエコクッキング」は10月中旬ごろ公開予定です。
この記事は、平成25年に開講されたクリナップ寄付講座「キッチンから笑顔をつくる料理アカデミー」の内容をまとめたものです。
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