2019年09月02日

【料理アカデミー】食と健康vol.2-講義編③「よく噛んで、より健康に」

お気に入り(0

食と住に深く関わる企業であるクリナップは、現代における“食の大切さや役割”を、皆さまと共に見つめ直すことが大切だと考え、生活研究部門である「おいしい暮らし研究所」が中心となり、聖徳大学さま、武庫川女子大学さまのご協力のもと「キッチンから笑顔をつくる料理アカデミー」を企画、提供してまいりました。
ここでは、多彩な講師の方からいただいた貴重なご講義や実習の内容をお届けします。

講師:前田 佳予子
武庫川女子大学教授。保健衛生学博士。管理栄養士。全国在宅訪問栄養食事指導研究会会長。
(平成25年10月 講座実施時)

「食と健康」ーーよく噛んで、より健康に

今回は、「食と健康」というテーマで開催された講義の後編を、WEB版として特別にお届けします。前編は「食事学」についての講義をご紹介しましたが、後編は「シニア世代の栄養管理」をトピックに3人の先生にお話しいただいた内容をご紹介します。
講師は、武庫川女子大学から福尾惠介先生、前田佳予子先生、鞍田三貴先生の3人。前回ご紹介した福尾先生の講義「高齢者の特徴を踏まえた健康増進について」に続き、今回は前田先生の「食べることと飲み込むことについて」の講義をお届けします。

高齢化による在宅医療への注目

わたしの専門のテーマは、摂食や嚥下についてなのですが、まずは高齢化に関する医療や介護についてのお話をしたいと思います。
高齢化に伴い、現在では国や食の団体などのさまざまなところで在宅医療が重要視されています。高齢化による医療への影響として、大きく3つのことが挙げられます。ひとつめは、疾病の発症リスクが高くなるということ。外来受診率は、75〜79歳がピークです。ふたつめは、75歳以上になると脳血管疾患が、ガンなどの悪性新生物を上回るということです。医療費は、脳血管疾患の方が高いのです。3つめは、疾病が長期化しやすい脳血管疾患の場合、75歳以上では平均在院日数が100日を越えるということです。そのため、国は在宅医療に非常に力を入れているのです。

介護度と在宅の関係性

在宅で暮らしている方の要介護度をみると、要支援・要介護度が1〜2の方は十分在宅で暮らせます。ポイントとなる介護度は、要介護3です。要介護3になると、在宅と施設のサービスの利用者数が逆転します。要介護度が低いほど在宅での療養が多いのですが、介護度が高くなると施設への入所者が増え、介護度3になると在宅での暮らしが困難になります。できる限り高齢者の方に在宅を利用していただきたいのですが、そのためにはどうしたらいいのかということが、さまざまなところで課題になっています。

高齢者の一人暮らしにおいて、懸念事項は……

在宅の問題のひとつが、前回の福尾先生の講義でもお話のあった「栄養不良」です。栄養不良には、低栄養だけでなく過栄養も含まれます。低栄養の例としては、「痩せてくる、皮膚が炎症を起こしやすい、傷・褥瘡(じょくそう)、抜け毛、髪の毛の脱色、風邪などの感染症、下肢や腹部のむくみ、口の中や唇が乾いている、唾液がべたべたする、食欲がない、握力が弱い、よろけやすい、だるい、ボーッとしている、皮膚が乾燥し弾力がなくなる」などがあり、これらは外見や動作などからわかることです。ご自身が低栄養なのか疑問を持たれた場合、私たちは早期発見のために体重の変化やむくみを確認します。体重については、半年に2~3kg減少したか、あるいは半年で体重の減少率が3%になったかを診ます。気を付けていただきたいのは水分です。25歳の方と75歳を越えた方では体内の水分量が違うので、喉が渇かなくても常日頃から水分をしっかり摂るように心がけてください。

摂食・嚥下の症状を知ろう

だんだんと年齢を重ねると、食べる力や飲み込む力が低下してきます。食べるスピードも遅くなりますし、食べる量も減ってきます。そのほかにも、口の中に食べ物を長くためる、口からボロボロとこぼす、知らない間に口からよだれが出る、むせる、咳が出る、あるいは咳の力が弱い、うがいがうまくできない、声がかすれる、というようなことも出てきます。
摂食や嚥下に関連する症状として、次のようなことが挙げられます。まずは声の変化です。湿性嗄声(しっせいさせい)といい、がらがら声のことを指します。それから痰の量、咽頭違和感(なんとなく喉がつかえる)、咳が出る、むせる、口の中に食べかすが残る、乾燥して口臭がきつくなる、痩せ、食欲の低下、食事内容・好みの変化などがあります。これらは、在宅でも診ることができます。摂食・嚥下障害が起こり食べられなくなることで、低栄養や脱水、消化機能の低下、食べる楽しみの喪失からくる心理的な問題にもつながります。

食べ物を食べるときの「先行期」

私たちは、食べるときにはまず「温かいのか冷たいのか、硬いのか軟らかいか、どんな匂いか、どんな味か」ということを認識します。そして、食べ物を取るときには、口に運ぶ量、運ぶ早さ、噛む量などを見ます。これを「先行期」といいます。嚥下というのは飲み込むことですが、食べ物が気管に入ることを誤嚥といいます。普段喋っているときは、食道が塞がれていて、その隣にある気管が開いています。ですが、食べ物を飲み込むときは食道が開き、その中に食べ物が入っていきます。誤嚥とは、普段食べ物が入らないはずの気管に入ってしまった状態のことをいいます。

もしむせてしまっても、背中はたたかないこと

先行期の次は「準備期」です。準備期では、口の中に食べ物を取り込み、咀嚼して唾液と混ぜて固まりをつくり、そして舌や唇の運動機能によって食道へ送り込んでいきます。それができなければ、食べ物を取り込めない、噛めない、口から食べ物がこぼれるという障害が出てきます。
次の「口腔期」は、食塊を口から胃、つまり食道へと送り込んでいくことです。食塊を咽頭から食道へと送った際、食道の入口が開かないと食塊が入れません。食塊が入れなければ喉に残り、むせてしまいます。みなさんの周りでむせた方がいても、背中をトントンとたたかないようにしてください。飲み込むとかえって気管に入ってしまうので、ティッシュを渡して出してもらうようにしてください。

高齢者の栄養補給におすすめの食材

食べる力が落ちたときの栄養対策として、おすすめの食材をご紹介します。
まず、料理のつなぎやとろみづけに、卵・乳製品をお使いいただくといいと思います。野菜では、オクラやモロヘイヤ、なす(皮はむく)、れんこん、かぼちゃなどがあります。ほかにも、山芋やじゃがいもをすりつぶして使うのもおすすめですし、バナナやアボカドはまとまりがつくので食べやすいと思います。お肉はひき肉をよくすって調理し、魚も刺身をたたいたり、すり身にしてください。大豆製品では、豆腐やひきわり納豆もいいです。調味料では、マヨネーズ、クリーミーなドレッシング、練りごま、味噌などがあります。なぜ練りごまなのかというと、すりごまやごまは、入れ歯の間に入ってとても食べにくいため、入れ歯をしている方にとっては非常に苦痛なのだそうです。ですから、年齢が高くなってきたら練りごまの方が食べやすいと思います。
なかなか買い物に行けないときに助かるのは、缶詰の魚や肉、マッシュポテトのもとやシリアル、コーヒー用のフレッシュクリームや粉末飲料、レトルト食品、調理用ソースなどです。これらを準備しておくのもおすすめですね。冷凍のシューマイやワンタンも、スープをつくったり卵を落としたりすることで、ちょっとした栄養補給になりますのでぜひ覚えておいてください。

「よく噛んで食べると肥満を防げる」は本当だった!?

私は、授業で咀嚼能力を見ています。咀嚼とは、顎、口腔系が食べ物を切断、破壊、粉砕し、そして唾液と混ざり合いながら食塊をつくって、嚥下動作を開始するまでの一連の能力のことです。なぜ、咀嚼能力を見るかというと、最近子どもの咀嚼能力の低下が指摘されているからです。咀嚼能力の低下は、過食と肥満につながります。年々、肥満の子どもが増加しているのです。
高校の男子生徒を対象に、咀嚼能力と生活習慣・運動習慣・運動能力との関係を調査した結果、次のようなことがわかりました。咀嚼能力が強いグループは、運動量が多くよく噛んで食べていて、反対に咀嚼能力が弱いグループは、運動量が少なくあまりよく噛まず、軟らかい食事を好むという結果が出ました。咀嚼能力と運動能力の関係において、咀嚼能力の強い方は筋の持久力が高いといわれています。この結果から、よく噛んで食べて顎の発達を促進し、咀嚼能力を強くすることが重要だとわかりました。

咀嚼力の測定では、若い世代が心配

咀嚼は、食物摂取から嚥下までの動作の連続なのですが、それを測るために、色の変わるガムやパラフィンキューブ、グミゼリーなどで評価する方法があります。たとえば、私たちが測定する際に使うガムの場合、最初は緑色をしています。それを2分間噛み続けると、ピンク色になります。均一に濃いピンク色のガムになったときは問題ないのですが、緑色が残っていた場合、喉詰めにつながる可能性が高いといえます。測定の際、私たちはガムの色の差を見るのですが、最近の若い方は、濃いピンクではなく薄いピンクの学生が4割ほどいます。緑色が残ることはないのですが、色が薄いのです。つまり、若い方の噛む力が弱くなっているということです。また高齢者の方だと、総入歯や部分入歯などの義歯が合わないと、同じように薄いピンクになる方がいます。

噛み合わせは運動によって維持できる

私たちは4年間、西宮地区で「咬合(こうごう)力アップ運動」というものを行っています。月2回30分ほど、柔軟、レジスタンストレーニング、口腔機能トレーニングをしています。普通は加齢とともに噛む力は落ちるのですが、参加者のみなさんの咬合力は4年前から全く落ちていません。2009年のデータをもとに、年齢がほとんど変わらず、体脂肪も骨格筋も変わらない、骨密度なども差がない方を比較しました。握力に関しては、ほとんど差がありませんでした。しかし咬合力は、運動をしていない方は年齢とともに落ちていましたが、運動をしている方はほとんど下がっていませんでした。このことから、運動によって、ある程度咬合力を維持できるということがいえます。このことを、みなさんに知っていただければと思います。

 

[つづく]

「食と健康vol.2-講義編④健康維持のためのさまざまな基準を知ろう」は9月中旬ごろ公開予定です。

 

この記事は、平成25年に開講されたクリナップ寄付講座「キッチンから笑顔をつくる料理アカデミー」の内容をまとめたものです。

この記事を見た方にオススメの記事

12/16

今日は大洗濯の日

大掃除と同時に、思い切って布団やカーテンなども洗濯して、すっきりと年末年始を迎えましょう!