2018年02月09日
味噌はお米にこうじかびを生やし、そのこうじかびが出すアミラーゼの力でお米のデンプンを小さな糖にします。これを糖化といいます。さらにアミラーゼは、大豆のタンパク質を分解します。そのあと乳酸菌で乳酸を発酵させ酵母でアルコール発酵させることで、みなさんがご存知の味噌の風味が生まれてくるわけです。未醤といわれたのは平安時代ですが、その当時味噌を食べていたのは貴族や天皇などの朝廷です。鎌倉時代になり武士の時代になると、武士が味噌を食べるようになります。鎌倉時代には味噌をすり鉢で擦って、味噌汁をつくるという習慣が普及します。そして、ご飯と味噌汁とおかずという日本食の典型的なスタイルが生まれます。その後室町時代、戦国時代になるのですが、当時の戦国武将の常識では農民は使い捨てでしたので、このときはまだ農民は味噌を食べていません。
そんな中、“農民は国の宝である”という考え方をした人がいました。武田信玄です。なぜかというと、農民が元気だったら野菜やお米をつくってくれるし、戦いのときには農民に兵士として働いてもらいたかったからです。武田信玄は、騎馬軍団を指揮する戦上手で、また人徳者だったので周りから尊敬されていました。その彼が味噌づくりを奨励し、つくった味噌を買い取ってくれるということで、農民の間にも広まっていきました。そして、やがてほかの地方の戦国大名も武田信玄にならい、農民に味噌づくりを教えるようになりました。
このようにして味噌づくりが広がるのですが、当時はいまのようにレシピがありません。そのため、味噌の多くは米味噌ですが、米の代わりに麦を使ったり、米を使わないで豆だけでつくったり、塩と麹の割合が1対3のところもあれば3対1のところもあり、同じ味噌といっても千差万別でした。このような背景があり、日本各地で特徴のあるいろいろな種類の味噌がつくられるようになりました。
味噌は大豆が主原料ですので、サポニン、イソフラボン、レシチンといった大豆由来の有効成分があります。味噌だけでなく、大豆でできている豆腐、豆乳、納豆、すべてに入っています。サポニンは、過酸化脂質の生成防止や血中コレステロールなどの低下、動脈硬化の防止に有効です。イソフラボンは、エストロゲン(女性ホルモン)への作用がありますので、更年期障害でお悩みの方に大豆はおすすめです。また、抗酸化作用、骨粗鬆症の予防にも有効です。
現在ある味噌は、日本の食文化がつくり上げたものです。ところが、日本人の味噌の平均購入量は激減しています。私が小学低学年くらいまでは、朝食でも夕食でも味噌汁が出ました。ところがいまは、朝食はパンが多いので味噌汁は出ません。夕食も味噌汁が出ることは少ないようです。そのようなことから、日本の味噌の購入量が減っているのです。対して輸出量は急増しています。これは、アメリカでの消費量増加が原因です。
アメリカの保険制度は日本のように充実していないため、病気になったら医療費を全額自分で払わなければならず、とても高くなります。そのため体調が悪くなっても我慢し、そのうち悪化してしまいます。アメリカ政府は何とか国民を守らなければいけないということで、「世界的に健康に良い食品とは一体何だろう」という調査をしました。すると、日本の昭和40年代前半までの食事が素晴らしく、またヘルシーだということがわかりました。
その頃の日本人は、何をよく食べていたかわかりますか? 豆腐、納豆、味噌、醤油など大豆由来のものが多かったのです。ところが、当時のアメリカは「大豆は人間様が食べるものではない。あれは家畜の餌である」と考えていたため大豆を食べませんでした。でも、病気になり、健康になりたいと思った人が食べ物から意識し、日本食が紹介されるようになりました。大豆からつくられているのを知りながらも一度食べてみたら意外とおいしく、また、お医者さんに行くと体調が良くなっていることもわかり、さらに口コミで広がり味噌を食べる人が増えました。
ヨーロッパでも日本人贔屓のドイツが、アメリカでそういう結果が出たならドイツでも……と食べ始めたことにより、ヨーロッパにもどんどん輸出されました。その結果、味噌の輸出量が急増したわけです。ですが、せっかく日本がつくった素晴らしい味噌を、日本人が食べなくなったのは少し問題だと思います。
次回は、お酒の効能と酢との関係について。それから塩麹とそのつくり方をご紹介します。
[つづく]
次回、『食の科学「発酵」-講義編②カラダにいい調味料〜「発行食品の不思議な世界」〜』は2月23日ごろ公開予定です。
この記事は、平成25年に開講されたクリナップ寄付講座「キッチンから笑顔をつくる料理アカデミー」の内容をまとめたものです。
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