2018年02月09日
食と住に深く関わる企業であるクリナップは、現代における“食の大切さや役割”を、皆さまと共に見つめ直すことが大切だと考え、生活研究部門である「おいしい暮らし研究所」が中心となり、聖徳大学さま、武庫川女子大学さまのご協力のもと「キッチンから笑顔をつくる料理アカデミー」を企画、提供してまいりました。
ここでは、多彩な講師の方からいただいた貴重なご講義や実習の内容をお届けします。
<食の科学・発酵>講義編①
講師:松井 徳光(武庫川女子大学教授)
農学博士。日本テレビ系列「世界一受けたい授業」に出演。専攻は食品微生物学。特に、きのこの発酵能を用いた機能性食品の開発では世界の第一人者。
(平成25年10月 講座実施時)
清酒、ビール、ワイン、味噌、醤油、納豆、チーズ、ヨーグルト、食酢、鰹節、甘酒、漬物などは、微生物の働きによってつくられる発酵食品です。微生物とは、その個体を肉眼で見ることのできない小さな生物のことです。たとえば、大腸菌。私たちの大腸の中にたくさんいますが、大きさは1~3μm。1μmは1mmの1/1000です。とても肉眼では見えない大きさですので、人類は17世紀に至るまで微生物の存在を知りませんでした。顕微鏡が発明されて小さな物が見えるようになり、人間は微生物というものを知ることになるのです。
微生物の種類は形や性質などによってさまざまで、細菌、放線菌、酵母、カビやきのこも微生物の一種です。私たちが見ているきのこは子実体といって、複数の菌糸が集まり大きく変形したものなのです。菌糸の一つひとつは、本当は目に見えないものなのです。
この地球上には悪い微生物と良い微生物がいます。悪い微生物というのは、よく悪玉菌といわれますが、人に害を及ぼす微生物のことです。バイ菌ともいいます。病気や食中毒を起こしたり、腐敗を起こしたりします。たとえば、コレラという病気はコレラ菌が原因になっています。また、腸炎ビブリオやサルモネラといったものは食中毒を引き起こします。“食べ物が腐る”ということは、その食べ物に微生物がくっついて分解し、私たちが食べられないような状態にしてしまう現象のことです。
それに対して良い微生物、善玉菌などといわれますが、これは私たちにとって有益な働きをします。先ほど紹介した発酵食品は、良い微生物がつくってくれるものです。また、ペニシリンやストレプトマイシンのような抗生物質、あるいはコルチゾンのようなホルモンも、微生物によってつくられています。さらに、グルタミン酸ナトリウムなどのアミノ酸、イノシン酸やグアニル酸などの核酸といった食品添加物も、いまは微生物で大量につくられています。
工場排水や生活排水は、そのまま流すと海や川が汚れてしまいます。私が小学生のときはヘドロ問題などの公害問題がありましたが、いまは国が率先してそういうことを禁止し、微生物で分解してきれいになった状態で流すようになりました。微生物が環境浄化に寄与しているわけです。
そのほか、エビオスというビール酵母を固めたものは、酵母の中に必須アミノ酸やビタミンが多く含まれているため、昔から栄養剤として使われてきました。飼料に含まれるクロレラや酵母にも必須アミノ酸がたくさんあるため、豚や牛の餌として与えられています。ビオフェルミンなどの整腸剤は、乳酸菌を固めたものです。積極的に乳酸菌を摂ることによって整腸作用を促しています。日本で代表的な整腸剤のもうひとつは正露丸です。正露丸は、どちらかというと痛いときに飲んで痛みを麻痺させ、その間に自己治癒力で徐々に治していくものです。
洗濯洗剤も、微生物が関係しています。私が学生の頃は、洗濯洗剤の箱はとても大きく、一度に使う洗剤の量は紙コップ1杯〜2杯ほどでした。ところが、突然コンパクトになり、使用量も少なくなりました。なぜか? 答えは酵素パワーです。微生物によってアミラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼといった酵素が大量に安くつくられるようになりました。
たとえば、あんこなどの汚れは糖質ですので、アミラーゼで分解できます。油汚れはリパーゼで、卵みたいなタンパク質はプロテアーゼで分解できます。これらで分解できなくても私たちの服は大体繊維でできていますから、セルラーゼで繊維を軽く分解すると、汚れがついているところも一緒に浮き上がり、汚れが落とせるようになります。
発酵食品に話を戻すと、ヨーグルトは乳酸菌とビフィズス菌を含みます。糸引き納豆は納豆菌、ぬかみそ漬などの漬物は乳酸菌や酵母、味噌は麹カビ、乳酸菌、酵母、それから清酒は麹カビと酵母、甘酒は麹カビ、食酢は麹カビと酵母と酢酸菌、このような微生物が関与してつくられています。塩麹は、麹カビで発酵させたものです。
代表的な発酵食品の良い点を、個々に紹介したいと思います。まずはヨーグルト。ヨーグルトが身体に良いということは、ご存知だと思います。ヨーグルトは、普通牛乳に乳酸菌を入れて乳酸発酵させます。牛乳の中には乳糖という糖があり、これを乳酸菌が乳酸という酸性物質に変えます。急に酸性になりますから、牛乳の中にあるカゼインというタンパク質が酸変性をして固まるとともに、乳酸菌も増殖していきます。
ヨーグルトに含まれる乳酸菌とビフィズス菌は、お腹の運動を高めてお通じを促します。ヨーグルトの中の乳酸菌は生きた状態で食べられており、腸に届くと蠕動(ぜんどう)運動が盛んになって便が出やすくなります。便はためておくと大腸ガンなどの病気を引き起こします。私たちの腸の中には良い菌もいれば悪い菌もいます。乳酸菌やビフィズス菌が多くなれば、その分だけ悪い菌の割合が少なくなります。悪い菌は、アンモニアやインドール化合物など、ガンを引き起こしたり、老化を促進したりする物質をつくるのですが、その菌の数が減ることで有害物質を抑えられ、腸内腐敗を防止することができます。
乳酸菌やビフィズス菌は、病原菌の腸内感染を防ぐのにも役立ちます。たとえばコレラ菌がついている海草を食べたとしましょう。ところが乳酸菌やビフィズス菌がいっぱいいると、そのコレラ菌は腸の中で 増えることができません。そのうち便として出てしまいます。反対に、乳酸菌やビフィズ ス菌が少ないと、コレラ菌が増えていくチャンスを与えてしまうわけです。
また、体の免疫能力を高める効果もあります。乳酸菌やビフィズス菌は良い菌ですが、私たちの体の中に入ると、「何か微生物が来たぞ」と免疫細胞がウォーミングアップをします。攻撃はしませんが、すぐにでも対処できるような状態になります。そのような状態のときに何か病原菌が来るとすぐにやっつけられるわけです。もし乳酸菌やビフィズス菌が体内にあまりいなかったとすれば、免疫細胞がウォーミングアップをしていないのですぐには攻撃できません。悪い菌が増殖し、かなり増えた段階でようやく攻撃するので、その間に病的症状が起こってしまいます。
常に病気になりにくい状態にしたいならば、ヨーグルトは必須です。このような生きた乳酸菌などを摂ることによって健康を維持するという考え方を、“プロバイオティクス”といいます。酵母も、納豆をつくっている納豆菌もプロバイオティクスの微生物といえます。
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