2017年12月20日
食と住に深く関わる企業であるクリナップは、現代における“食の大切さや役割”を、皆さまと共に見つめ直すことが大切だと考え、生活研究部門である「おいしい暮らし研究所」が中心となり、聖徳大学様、武庫川女子大学様のご協力のもと「キッチンから笑顔をつくる料理アカデミー」を企画、提供してまいりました。
ここでは、多彩な講師の方からいただいた貴重なご講義や実習の内容をお届けします。
<食の役割>講義編
講師:室田 洋子(元聖徳大学教授)
人格心理学、臨床心理学担当。臨床心理士。全国保育士会、全国保育協議会等で、保育の中の食育の指導委員。(平成24年3月 講座実施時)
日々の食卓状況というのは、人の心理にものすごく大きく影響を及ぼす場所だと言えます。そのことを、3つの要素から考えていきましょう。
まず1つは、食卓を共にする人というのは、外ですれ違う人(関わりのない人)と違って、また会う機会のある大事な人ということ。複数回会う人について、その人がどういう人なのか、どういうしぐさをする人なのかを、意識せずとも見ています。一緒に食べる人から情報を吸収していくんです。
子どものいる家族でしたら、お父さんがいて、お母さんがいて、お姉ちゃんと弟がいて…、食事中にお父さんの話を聞きますね。お母さんの気配りもちゃんと見えますね。子どもの甘える様子も見られます。いろいろな種類の人間の関わり方が、とても具体的に示される場所なんです。お父さんの考え方、お母さんの価値観、お姉ちゃんのセンス、こういうものが直に伝わってくる、人の影響を受けるということです。一定の人が関わることで、人からの影響をもろに受ける場所が食卓であるということです。
それから2つ目は、「食卓の大きさ」です。座ったときに向かいの人の顔が見えますね。しぐさが分かりますね。声が聞こえますね。食卓を囲むと、人との距離が近くなります。そこで何が起こるかというと、表情が読めるんです。しぐさの意味が分かるんです。「水! 水!」って強い口調で言っていたら、「あぁ、怒ってるな」と分かります。これだけで、たくさんしゃべらなくても意味が伝わってしまうんです。
それから声ですね。声の調子で機嫌が分かってしまいます。何もしゃべらなくても、相づちの仕方だけでメッセージが伝わってしまうんですね。伝わる距離なんです。荒れた心があると嫌な音しか出ません。そんな場面にテーブルマスターがいると様子が変わります。テーブルマスターはたいてい大人ですから、「大人の気配り」が生まれます。これが大事なことだと私は思います。
「大人の気配り」が自然とできるテーブルマスターは、そんな場面で、どうでもいいことを話しだします。 会話が途絶えそうな雰囲気になったとき、関係のない話をして雰囲気を和らげてくれます。
「八百屋さんのおばさんが『大根の葉っぱを切ったから、これも持ってく?』ってくれた。あそこのおばさん、気前がいいわねー」
これだけで「へぇー」ってなるんです。「しっかり食べなさいよ」「ビタミンを摂らないと大変なことになるんだから」と言うよりも、八百屋のおばちゃんが漬け物にするといいと言って勧めてくださった話を出す。すると、八百屋のおばちゃんの気前のよさにつられて箸が進む。これが気配りなんですね。たかが大根の葉っぱでも付加価値が出てくるんです。これが食卓状況における関わりの質を決めていくことになるんです。
3つ目の要素は、「時間」です。 “いただきます”から“ごちそうさま”まで、一定の時間を相手の人と共有するということ。それは15分でしょうか、30分でしょうか? ヨーロッパみたいに1時間半とかでしょうか? 長さはいろいろだとは思いますが、表情とか声の調子とか、しぐさを共有しながら「へぇ、そういうことなんだぁ」と、食卓にいる時間には、相手と心の体験を共有する時間となります。
話に花が咲いて、お父さんとお兄ちゃんが夢中になってサッカーの話をしたかと思えば、そのあと、お父さんとお母さんが「あれってかっこいいわよねー!」なんて話をする。食事が終わりかけの子どもは「何がかっこいいんだろう?」と気になります。「あれは最悪よねー。ああいうことはするもんじゃないわよねー」ってお父さんとお母さんが興奮して言ってると、子どもも共感して「あー、最悪…」となったり。そうすると、食べ物がなくなっても座っているんです。父と母が最悪と思うことは「僕だってそう思うぞ」ということになるんです。
耳慣れない言葉や興味深い話題で溢れるような食卓だと、食べ終わっても座っているんですね。つまり、食卓の滞在時間が長くなるんです。そして、「お茶入れ替える?」ってなります。さらには「くだもの剥く?」「そうだね」と。別に食べたいわけではなく、あったらいいというくらいでも、もうちょっとここのテーブルにいたいから「そうだね」となるんです。そんなときはお母さんもキッチンではなく、テーブルにリンゴを持ってきてしゃべりながら剥くでしょう? そのことが大事。 ここの雰囲気の中に浸って、そして「うんうん。私もね…」って話題を広げる。これが、「心の体験を共有する時間」です。
ところで、食事のときは席を立たないことになっているでしょう? 席を立つのは、はしたないか未熟者です。2歳児がウロウロしているのは未熟者で、食の礼儀、作法が身についていないから仕方ないが、3歳までには食事が終わるまでは座っていることを体に染み込ませなければいけない、と多くのお母さん達は考えますよね。
けれども食事はとにかく食べてくれればいい、食べてくれないと困るという発想が先になると、歩き食べが起こってくるんです。口に含んだままあっちへ行ってしまって、口の中のものがなくなると戻ってくる。また口に詰め込むとウロウロ歩きまわる。「とにかく食べて欲しい」と思うと、歩き食べを許容してしまいます。そうすると4歳になってもまだ歩き食べをします。ひどいと5歳になっても。これでは日本人としての作法を身につけていないということになってしまいます。ただ食べればいいというものじゃない。食事中はウロウロせず、ちゃんと自分の手で器を持っていただくということは、きちんと食事を味わうことにもつながります。
しかし親は、食事が始まったら席を立たないことになっているから、この機会を使って言いたいことを全部伝えようとします。子どもは食事が終わるとすぐ2階に逃げたりしてしまうものだから、とにかく伝える。
「今日の予定は何?」「提出物は大丈夫なの?」「期末試験の準備はできた? 今度は大丈夫なの?」
そう言われると子どもは、「お腹を満たしたら、なるべく早くこの席から立ち去らないとやぶへびになってしまう。ここにいると恥をかかされるし、痛いところを突かれるし、何か約束させられるし、できない約束に念を押されるし……最悪!」となりますよね。
そうすると、食卓の滞在時間がものを食べるだけの時間になってしまいます。できるだけ早くお腹に詰め込んで、早々に立ち去るのが得策であると考えるようになります。そうすると、ちょっとずつ時間をずらして食卓に着くようになります。要するに、「ご飯よー」って言ってもなかなか来ない。そして早々に食べて、みんながお茶しているときに立ち去ってしまう。滞在時間が少なくなるのはこのせいですね。
どうやってこの食卓に 思春期の子どもたちを気持ちよく着かせるか。このことはやっぱりテーブルマスターといいますか、そこにいる大人の配慮があるかないかということになります。“いい食卓”が心を救うと私は思います。それは必ずしも“いい食べ物”じゃなくてもいいということなんです。
食事は繰り返しの作業です。お茶も含めたら1日に何回も食卓につきますね。そのときにいい雰囲気を共有できる食卓であるか、逆に緊張する食卓か、恥をかく食卓なのか、これによって人格形成の道筋が違ってきます。食卓につく時間は、そういった意味でも大事にしていきたいところです。また食卓は、心がひしゃげた人たちを再生させる大きな力を持っています。毎日、繰り返し食卓につくことから生まれる力。食卓では、口だけの、うわべだけのことでなくて、まなざしひとつで読み取れますから、「本当に思っていてくれるんだな」ということを確かめることができるわけです。
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