2019年07月12日
食と住に深く関わる企業であるクリナップは、現代における“食の大切さや役割”を、皆さまと共に見つめ直すことが大切だと考え、生活研究部門である「おいしい暮らし研究所」が中心となり、聖徳大学さま、武庫川女子大学さまのご協力のもと「キッチンから笑顔をつくる料理アカデミー」を企画、提供してまいりました。
ここでは、多彩な講師の方からいただいた貴重なご講義や実習の内容をお届けします。
講師:福尾 惠介
武庫川女子大学教授。医学博士。武庫川女子大学栄養科学研究所所長。
(平成25年10月 講座実施時)
前回は、メタボリックシンドローム(以下メタボ)を防ぐための内臓脂肪の減らし方など、健康増進についてのお話をご紹介しました。今回は、老化と食事の関係や、栄養管理についてのお話です。
カロリー制限をすると長生きする、と聞いたことのある方もいらっしゃるかと思います。メタボは、内臓脂肪が増えたり、糖代謝や脂質代謝などで病気を起こりやすくなる状況ですが、カロリー制限は代謝を改善したり内臓脂肪を減らすなど、病気を防ぐ効果があります。実際にカロリー制限に関する研究もされていて、普通のエサを食べた猿とカロリー制限をした猿で比較実験がおこなわれました。その結果、健康な猿の割合を年齢別に見ると、カロリー制限をした猿の方が寿命が長いことがわかりました。
カロリー制限をすると寿命は長くなりますが、おいしいものを食べずに長生きしたいと思う人はあまりいないですよね。そのような考えから、カロリー制限と長寿命のメカニズムを検討して出てきたのが「サーチュイン遺伝子」です。カロリー制限をしなくてもサーチュインを活性化すれば寿命を延ばせるのではないか、ということなのですが、本当にそうなのでしょうか。
サーチュインを活性化させる薬が世界中で開発されています。サーチュインを活性化させる栄養素に、ポリフェノールがあります。ポリフェノールは抗酸化物質として知られていて、チョコレートや赤ワインにたくさん含まれています。でも、それらをしっかり飲んだり食べたりしたら長生きするのかというと、そうはいかないですよね。ポリフェノール以外のものも入っているので、健康被害を起こすこともあります。
最近、通販などでレスベラトロールが売られていますが、これはサーチュイン活性化物質として出ているものです。本当に効果があるかどうかは、証拠が少ないためまだわかっていません。効果として挙げられているのは、心臓病や動脈硬化、脂質代謝の防止、糖代謝の改善、アルツハイマーの予防など、魔法のような薬です。サーチュインを活性化する薬は、老化そのものを抑制するのではないかと非常に注目されています。
サーチュインの活性化と寿命について、警鐘的な例をひとつご紹介します。
みなさんの体内には、ガンを抑制する遺伝子があります。この遺伝子がたくさん発現していたらガンにならずに長生きするのではないか、ということでマウスを使った実験がおこなわれました。正常なマウスでも5割近くガンができるのですが、ガン抑制遺伝子が欠損したマウスは8割以上にガンができ、早く死にました。一方、ガン抑制遺伝子がたくさん発現したマウスでは、ガンができたのは6%以下ですが普通のマウスより早く死んでしまいました。なぜかというと、このマウスは老化が進んでいたのです。年をとって早く死んでしまったということです。
最近、アンチエイジングという言葉をよく耳にします。先ほどのサーチュインの活性化も同様ですが、老化を抑制するということが体にとって本当にいいことなのかということは、これからしっかりと評価しなければいけません。
内臓脂肪を減らすのには、体重管理がひとつの目標になります。
外国の例ですが、死亡率が一番低いのはBMIが25付近の人です。外国の肥満の基準はBMI30ですが、日本ではBMIが25あると肥満です。日本でも昔から小太りの人は長生きするといわれています。もちろん、どんどん体重が増えるにつれて死亡率は高くなりますので注意が必要です。反対に、痩せにも気を付けなければいけません。BMIは低くても、死亡率が高くなるのです。体重の増加だけではなく、体重の減少も死亡率を高くする要素があるということです。
また、痩せについては、自分で減らしたのか勝手に減っているのかという点が大きなポイントになります。健康維持のために自分で体重を減らした場合は死亡率が下がりますが、いつのまにか体重が減っている場合は死亡率が高くなります。そこでみなさんにおすすめしたいのは、定期的に体重を測るということです。以前との比較は見た目だけではなかなかわかりませんので、定期的に測ることで体の異常に早く気付いていただけると思います。
外国の研究ですが、高齢者の方が実際に体重を減らすと、体の機能にどんな影響があるのかということを調べたものがあります。食事制限として1日500~750kcal減らし、良質のタンパク質、カルシウム、ビタミンをしっかり摂ることを栄養士が指導しました。また運動は、かなり激しい90分間のエアロビック運動とレジスタンス運動(筋力トレーニング)を週3日トレーナーと一緒に取り組みました。
1年後、体重が減ったのは食事制限をしたグループでした。体の機能は、運動をするともちろん上がりますが、食事制限でも少し改善されていたそうです。とはいえ、体の機能が一番改善していたのは運動と食事制限をしたグループでした。本当に痩せないといけない人は、食事制限と運動の両方をすると確実だということが、さまざまな研究で明らかになっていますね。
特に高齢者の方が急に食べなくなると、腎臓が悪くなることがあります。元々年齢とともに腎機能は落ちるのですが、特に糖尿病や高血圧の人は普通の人と比べると腎臓が傷んでいるので、急にカロリー制限をすると危ないです。
カロリー制限をして食べるものが少なくなると、体がエネルギー不足になります。そうなると、自分の体からエネルギーを補います。その際、脂肪組織だけでなく筋肉も分解します。筋肉の分解は、腎臓に負担がかかるので、腎機能が悪化してしまうのです。
もうひとつ、水分不足も腎臓に影響します。食べ物には、栄養だけでなく水分も含まれています。食事を減らすということは、栄養だけでなく水分摂取量も減ってしまうのです。たとえばインフルエンザなどで何も食べられないとき、水を飲んでも脱水症状になるのはこのためです。このように食事が十分に摂れないことによる脱水も影響し、腎機能が悪くなるということです。
また、肥満の方がカロリー制限をした際、腎盂炎を起こしてしまったという例がありました。カロリー制限によって、免疫機能が低下してしまったのが原因だそうです。太っているからといって、栄養が足りているとは思わないでください。急に食事を減らしすぎると、急性の低栄養になり免疫力が落ち、感染症などにもかかりやすくなるといわれています。ですから、ゆっくりと食事制限をするのが重要なのです。
最後に社会的な側面から、一人暮らしの高齢者の方の食事・栄養についてお話ししたいと思います。
わたしは、学生と一緒に地域で調査などをしていますが、最近「栄養サポートステーション」で栄養相談を始めました。ここでは音楽療法なども行い、一人暮らしの高齢者の方の孤立感などによる抑うつ感をなくそうという活動をしています。一人暮らしの高齢者の方にとっては、自分で食事をつくるのが難しかったり、長生きしても仕方がないと生き甲斐をなくしてしまったりするため、栄養状態が悪くなります。高齢者の方が学生と交流することで抑うつ感が改善され、肺活量が良くなったりストレスが減ったりすることがわかっています。世代間交流が、高齢者の方が生き甲斐を見出したり孤立感をなくしたりできるということです。これは、高齢者の方が栄養や食生活を改善する上でとても大切なことなのです。
今後、一人暮らしの高齢者の方がどんどん増えるといわれていますので、地域がしっかりとコミュニティーをつくって対応していく必要があるのではないでしょうか。高齢者の方の栄養に影響する社会問題の重要性を、みなさんにも考えていただければと思います。
[つづく]
「食と健康vol.2-講義編③よく噛んで、より健康に」は7月下旬ごろ公開予定です。
この記事は、平成25年に開講されたクリナップ寄付講座「キッチンから笑顔をつくる料理アカデミー」の内容をまとめたものです。
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