2019年04月08日
食と住に深く関わる企業であるクリナップは、現代における“食の大切さや役割”を、皆さまと共に見つめ直すことが大切だと考え、生活研究部門である「おいしい暮らし研究所」が中心となり、聖徳大学さま、武庫川女子大学さまのご協力のもと「キッチンから笑顔をつくる料理アカデミー」を企画、提供してまいりました。
ここでは、多彩な講師の方からいただいた貴重なご講義や実習の内容をお届けします。
講師:池本 真二
聖徳大学教授。日本人の栄養必要量の策定や生活習慣病予防の観点から、高脂肪食摂取によって惹起される肥満、糖尿病、高脂血症などの栄養性慢性代謝性疾患発症予防に関する研究を行っている。
(平成24年3月 講座実施時)
前回は、食事が病気の予防や回復にどれほどの影響があるのかについて、解説しました。今回は、食に関するさまざまな問題を始め、肥満問題についてもご紹介したいと思います。
3食のバランスについて考えてみましょう。たとえば、朝食をとらないことで生活リズムに影響がでたり、野菜の摂取量がどんどん減っているという事実があります。このようなことは、まだ病気にダイレクトにつながっていなかったとしても、身体的・精神的に健康への影響が懸念されています。それがもとになって、生活習慣病が発症しやすい状況になるということです。これは、個人の問題ではなく「環境問題」として捉えるべきだといわれています。
食事には、安全性の問題もあります。食品添加物や汚染物質、近年では放射能の問題があります。少し前は、農薬が非常に大きな話題となり、いまでも多くの方が関心を持っています。関心を持つのはとてもよいことですが、やはりこれも、生産者と消費者がお互いどこまで納得するかというバランスの問題があるのではないかと思います。
最近の課題として、自給率の問題が挙げられます。これには、海外への依存や輸入される食品の安全性の問題が絡んでいます。そのため現在では、「地産地消」(地元の食材で自分たちの食事をまかなうこと)が叫ばれています。ここでも、消費者の取り組みが行き過ぎると生産者側が悲鳴を上げる状況になるので、バランスをとりながら地元の生産力を高め、利用者も信頼関係の中で利用していくことが必要になります。輸入を全くなしにすることはいまの時代不可能だと思いますし、そのバランスをどれくらいに設定するのかということは、生産者でも政治家でもなく、最終的には消費者が決めるものだと思います。そのような制度や仕組みを理解しながら、どのように判断するのかを真剣に考えることが大切なのではないでしょうか。
「生活習慣を改善しましょう」といわれるのは、生活習慣病の割合の増加とともに医療費が増えているからです。心血管系疾患、脳血管疾患、いわゆる脳卒中や心筋梗塞にかかる方が非常に多くなっています。
悪性新生物(ガン)は、環境要因や遺伝的な要因もありますが、全体の約6割が生活習慣病の影響を受けています。ですから、食生活を改善することは非常に重要なのです。
さらにいま話題になっているのが、介護の問題です。脳血管疾患にかかり一命を取り留めても、麻痺が残り介護が必要になってしまうこともあります。寝たきりになる原因の約35%が脳血管疾患だというデータもあります。このことから、生活習慣病の予防によって、医療費を削減できたり、介護の苦労やリスクも減らせるのではないかと考えられています。
厚生労働省が出した生活習慣病のポスターでは、不健康な生活は「生活習慣病レベル1」とされています。不健康な生活とは、タバコやアルコール、運動不足や過食などを意味しています。レベル2は生活習慣病のリスクがあがった段階ですが、まだ“病”ではない肥満傾向の方や糖尿病ではなく高血糖の方、高血圧の方が当てはまります。レベル3がようやく病です。肥満症や糖尿病、高血圧症と診断される方です。この状態が問題なのは、サイレントデジーズといわれ、気づかないうちに病態が進行してしまうという点です。そのため、気づいたときには脳梗塞、心筋梗塞、動脈硬化を起こしているということになります。
レベル2〜3の方は、日常の検診などで注意喚起されているはずなので、そこで注意をしましょう。ですが、根本的にはレベル1の段階を是正しないと、生活習慣病やメタボを改善することは難しいといわれています。
生活習慣病の中でも中心的存在なのが、「肥満=内臓脂肪の蓄積」です。国も、最初に肥満を中心としたメタボ対策を取り上げました。肥満が悪いと知られてはいるものの、なかなか改善されないのは、食欲に任せて好きなものを好きなだけ食べてしまっていることが理由にあげられます。
肥満は、身体的にデメリットが大きいということは認識されていますが、社会的なデメリットもゼロではないと思います。肥満が悪いということをわかっていながら太っているということは、自己管理ができないという見方をされる可能性があるからです。
2000年、厚生労働省によって「健康日本21」が策定されました。いろいろな目標が掲げられている中、中心となっているのが肥満者を減らすことです。2000年以前、20〜60代までの男性の肥満者の割合は増加傾向で、「健康日本21」のスタート以降もその割合は上がり続けていました。2008年にやっと減少したので、成果がようやく出始めたのではないかといわれました。改善には、そのくらい時間がかかるということです。しかし、必ず成果は現れると捉えることもできます。生活習慣に起因した疾患ですので、成果が出るまでには時間がかかりますが、5年、10年というスパンで意識すれば、その成果は出ると思います。
肥満によって、血圧が高くなりやすく、脂質も上がりやすく、また糖尿病も起こりやすくなります。その原因になるのがお腹に貯まる脂肪、「内臓脂肪症候群」の問題です。
内臓脂肪は、呼吸器や内分泌系、婦人科系疾患など合併症を生じやすいことが問題ですので、特に内臓に脂肪を貯めないようにということが提唱されています。
肥満の発症は、エネルギーのバランスが関係しています。つまり、摂食量と消費量のバランスです。2004年までのデータになりますが、国民健康・栄養調査では、1975年に比べ最近では300kcalほど摂取量が減っているということがわかりました。ですが、肥満者は増えています。ここでの問題は「活動量」です。エレベーターの使用や交通の便がよくなったことなどにより、人々の活動量は減っていると思います。摂取量自体も以前に比べて減ってはいるものの、消費量とのバランスが崩れてしまっているのです。
もうひとつ要因となるのが、摂食のパターンです。朝食を抜いて1日2食になると、1食ごとの摂取量が増えてしまい、いわゆるドカ食いという状況になります。その際にインシュリンが余計に分泌され、太りやすい体質をつくってしまいます。健康管理のためには、食事は3食バランスよく食べなければいけないということです。
お腹の中に脂肪が貯まると、脂肪細胞(アディポサイト)からたんぱく質が異常に分泌され、それが全身の代謝異常につながるといわれています。脂肪細胞は、血栓形成の原因にもなります。そのようなことから、内科8学会がメタボリックシンドロームを起こさないような取り組みを始めました。メタボリックシンドロームになると、心血管系疾患の危険度が日本人で約1.8倍上がります。海外ですと、3倍くらい心筋梗塞が増えるといわれています。
糖尿病や高血圧症、脂質異常症という危険因子の数が多いほど、心筋梗塞のリスクが上がります。その対策として、血圧だけを下げることや脂質の異常症の対処だけを考えても、氷山の一角を崩しているだけの話になってしまい、根本原因の解消にはなりません。解決のためには、運動習慣や食生活習慣を改善することが重要です。
食生活の改善による効果については、イギリスが調査結果を発表しています。その調査では、糖尿病になるリスクのある方を集めて、従来通りの指導をした方と血糖値を下げるために薬を使って強化療法をした方、食生活と運動習慣を改善した方を4年間フォローし、糖尿病を発症した人の数を比較しました。従来通りの指導に比べ、薬での強化療法は31%の抑制になり、さらに食生活の改善は60%の抑制につながったのだそうです。このようなデータは、他国からも出ています。
2004年には、WHOの総会で「食事、運動、健康に関する世界戦略」という声明が出されました。そのくらい、食生活と運動が生活習慣病の予防や改善に重要だということです。
次回の講義編③では、具体的な食事管理の方法などをご紹介します。
[つづく]
「食と健康-講義編③食事バランスの管理の仕方」は4月中旬ごろ公開予定です。
この記事は、平成24年に開講されたクリナップ寄付講座「キッチンから笑顔をつくる料理アカデミー」の内容をまとめたものです。
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