2018年03月23日
IHヒーターで煮物をつくると煮崩れが起こりやすいという方も多かったので、その実験もやってみました。ジャガイモを加熱して、どれくらい煮崩れするのかを見てみたのですが、ジャガイモの種類によって傾向は異なり、「IHの方が煮崩れが起こる」とはいえませんでした。ただ全体的にみると、IHヒーターの方が煮崩れしているものが多かったですね。IHヒーターは、鍋底に温度のムラが生じますので、中でボコボコと対流が起こりやすく、そのため少し煮崩れが起こりやすいという傾向があるといえるかと思います。
鍋の温度に関する大きな特徴としては、側面の温度についてもあげられます。鍋底の実験でも使ったサーモビューアーで見てみると、ガスコンロでは、鍋を火にかけると側面の温度もあがりました。ですが、IHヒーターで加熱したときには、鍋の底の一番下が熱くなっても側面は熱くなりませんでした。長い時間加熱していれば、鍋は金属ですので、熱が伝わってだんだん側面の温度もあがりますが、それでも時間はかかります。つまり、IHヒーターを使って加熱するときは、時間があまり長くなければ取っ手が熱くならず、素手でつかんでも大丈夫だということになります。それに比べてガスコンロの場合は、側面が熱くなるため取っ手も熱くなります。
このように、側面への熱の伝わり方が違うと、電源を切ってからの余熱に差がでます。余熱を利用して煮込みをつくろう、というときの冷め方が違うということになります。
IHヒーターの場合、銅やアルミの鍋が使えなかったため、それまで使っていた鍋を捨てなくちゃいけない、ということがありました。そこで、銅やアルミの鍋でも使えるようにするため、技術革新が進み、オールメタルIHというものが開発されました。ただ、オールメタルIH対応のアルミや銅の鍋を使うと、加熱に時間がかかることがわかりました。それは、通常のIHヒーターに比べ、コイルが工夫されているからです。IHヒーターを使うなら、鉄が貼ってあったり埋め込んであったりするようなIH対応の鍋を使っていただくのがよいかと思います。
最後に、熱効率についてご説明します。供給されたエネルギーがどのくらい調理の熱に使われるかということですが、これはIHヒーターの方がだいぶ高いです。測定の仕方にもよりますが、だいたい90%近くの電気エネルギーがほとんど熱になって使えるため、大変エコだといえます。一方、ガスについては測定方法次第ではありますが、熱効率は大体50%前後です。このような結果になりましたが、この点に関してはさまざまな議論があります。電気を使うIHヒーターでは、もともと電気をつくるためのエネルギーロスがあるとか、送電線を通る間に生じるロスがあるといわれることもあり、技術的なことを含む問題なので、ここでは数値のみの結果としてお伝えします。
ガスコンロとIHヒーターの違いを見てきましたが、どちらもとても便利なものであることに違いありません。もともとIHヒーターには温度制御機能やタイマーもついていましたが、現在ではガスコンロでも安全装置や温度センサーなどの安全対策がとられています。これは、昔わたしたちが調理に使った熱源に比べれば、本当に雲泥の差の便利さです。ですから、これらを使って、ぜひ上手にお料理をしていただきたいですね。
食品の加熱方法にはさまざまな方法がありますが、食品成分との関連を見ながらお話をさせていただきたいと思います。今回は、炭水化物、タンパク質、脂質の代表的な3つの成分についてご説明します。
まず、炭水化物ですが、これはわたしたちのエネルギー源として必ず摂らなければいけない成分です。炭水化物である穀類や芋類の中には、デンプンが含まれています。デンプンは、生で食べると消化が非常に悪く、あまりおいしいと感じませんが、加熱するとおいしくなります。この典型的な例が片栗粉です。片栗粉はジャガイモのデンプンで、お砂糖を混ぜて水で溶かして飲んでもあまりおいしくはありません。水で溶かすとサラサラした白い液になりますが、これを加熱するとドロッとした葛湯(くずゆ)になります。そうすると、香りやトロミが出るのでおいしくなります。このように、生のデンプンを煮ることを糊化(こか)といいます。デンプンを含んでいる食品では、デンプンを糊化させて食べるということに非常に大きな意味があります。糊化させると消化吸収がよくなるので栄養面でもいいですし、味の面でもおいしく感じられるようになります。
片栗粉は、ジャガイモの中に含まれているデンプンだけを取り出したものなので、熱湯をかければすぐに糊化します。温度でいうと、65℃くらいです。しかし、お米の中のデンプンは65℃では糊化しません。なぜかというと、お米の場合は細胞の中にデンプンが入っているので、もう少し高い温度が必要となるからです。デンプンを含んでいるものは、大体100℃近くまで加熱する必要があります。特にごはんは、昔から98℃で20分といわれていて、おいしいごはんにするためにはそのくらいの温度が必要だということになります。それゆえ、あまり熱が逃げないような形で長時間加熱ができる方法を選ぼうとすると、「蒸す」「煮る」「茹でる」といった方法になります。
お米やお芋といった炭水化物は熱を加えるとやわらかくなりますが、これはデンプンが糊化しているからだけではありません。同じ炭水化物の仲間で、食物繊維と呼ばれるセルロースやヘミセルロース、ペクチン質という成分が加熱によってやわらかくなるから、ということも理由のひとつです。
食材の成分として代表的なものの2つめに、タンパク質があります。魚や肉、卵、大豆などの主成分がタンパク質です。卵や魚、肉は生で食べることもありますし、加熱して食べることもあります。生のときと加熱したときとでは、栄養的な価値は変わるのでしょうか。
たとえば、先ほどの炭水化物でもお話した「お米」は、生と加熱後では全然違います。生米の状態だと、中のデンプンが10何%程度しかエネルギーになりません。ですが、魚は生でも煮ても焼いても、栄養的にはほとんど変わりません。それぞれの場合で消化する速度は変わりますが、栄養的には変わりません。ただ、衛生的な面を考えると、加熱した方が安心ですね。
以前、ユッケが問題になったことがありましたが、あれは加熱操作をせずに肉を生で食べたから中毒が起きたということです。
タンパク質の場合は、加熱温度によって固さが変わります。典型的なものは、卵です。半熟卵はトロッとやわらかいし、固ゆで卵はしっかり茹でると弾力がでて黄身はよく固まって白くなり、ポロポロしてきますね。ゆで卵の場合は、最終温度によって違いがでます。卵には、いろいろなタンパク質が入っているので一概に何℃とはいえないのですが、60℃くらいから少し変性を始めるタンパク質があります。だいたい65℃くらいになると白身が白っぽく濁り始め、それからだんだん白くなり、完全に固ゆで卵といわれる状態になるのは80℃くらいです。それくらいの温度にならないと、固くなりません。
お肉についても同じです。中が何℃になるまで加熱をするかということで固さが決まります。レアは55℃くらいまでしか焼かないので、血が滴る感じで、やわらかい。逆に固いものがお好みの方はウェルダンということになりますね。
このように、タンパク質の場合は、最終的に何℃まで加熱するのかということが大切なことなのです。
3つめは、脂質です。脂質は、加熱をしたから消化がよくなるとか、栄養価が高くなるということはありませんし、味が大変よくなるということもそんなにはありません。ただ、加熱をすると酸化が起きるので、あまり長く加熱をすると健康面で少し問題がでてきてしまいます。
脂は、溶けているのか固まっているのかということによって、わたしたちのおいしさの感じ方が非常に異なります。また、同じように脂が溶けていても、どのような形で食品の中に含まれているか、どのように加工されているかということによって違うんです。
この典型的な例が、ピーナッツです。炒ったピーナッツをそのまま食べると、そんなに脂っぽくないですよね。ピーナッツは、細胞の中に小さな油滴として脂が入っていて、これをよく潰していくとピーナッツバターになるのですが、ピーナッツバターは舐めると脂っぽいんです。そのように感じるのは、脂の存在の仕方が変わったからなんです。
バターとマヨネーズも同じです。「バターは脂だからダイエットのために、食べない」という方も多いのに、マヨネーズは平気で食べている方が結構います。実際、このふたつの脂の量はそんなに変わらないんですね。ですが、バターを舐めたときとマヨネーズを舐めたときとでは随分違う。これは、バターは脂がつながっていてい水分が粒になっているのに対し、マヨネーズは脂が粒になっていて、それを水分がつないでいるからなんです。脂が粒になっているか、つながっているかによって、わたしたちの感じ方が変わるということです。
脂を加熱して溶けた状態にするのか、冷やして固まった状態にするのかということによって、同じ脂の含有量でもおいしさが変わります。味に大きな影響はありませんが、そういうことを考えてどの程度加熱するのか、ということが決まります。
このように、いろいろな目的のために加熱という操作が行われています。ただ加熱すればいいというわけではなく、食材によって煮方や焼き方などを工夫し、適当な温度になるように加熱すると、よりおいしく食べられるということなんですね。
次回は、オーブンレンジの加熱についてご紹介します。
『食の科学「加熱」-講義編②オーブンレンジの有効活用』を読む>>
この記事は、平成24年に開講されたクリナップ寄付講座「キッチンから笑顔をつくる料理アカデミー」の内容をまとめたものです。
こちらの記事で掲載している画像は、2018年2月に発売となったクリナップの新しいシステムキッチン「CENTRO」の加熱機器「ハイブリッドコンロ Dual Chef(デュアルシェフ)」です。1台でガスとIHを兼ね備えているので、つくる料理に合わせて適した熱源を選べるのが魅力のひとつ。毎日の料理がより楽しく、より便利になる新時代の加熱機器です。
実物を見てみたい!という方は、ぜひお近くのクリナップショールームへ。
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