2018年03月23日
食と住に深く関わる企業であるクリナップは、現代における“食の大切さや役割”を、皆さまと共に見つめ直すことが大切だと考え、生活研究部門である「おいしい暮らし研究所」が中心となり、聖徳大学さま、武庫川女子大学さまのご協力のもと「キッチンから笑顔をつくる料理アカデミー」を企画、提供してまいりました。
ここでは、多彩な講師の方からいただいた貴重なご講義や実習の内容をお届けします。
<食の科学・加熱>講義編
講師:渋川 祥子(聖徳大学講師)
調理学担当。横浜国立大学名誉教授。「世界一受けたい授業」(日本テレビ)の家庭科の講師として活躍中。
(平成24年3月 講座実施時)
調理において、大変重要な操作のひとつである「加熱」。その加熱調理では、必ず「熱源」が必要となります。調理中のどこかで「発熱」があり、その熱が食品に伝わることで加熱された状態になるからです。
今回、加熱について大きくわけて5つのことをお話したいと思います。(講義編①では、下記の1と2について、3以降は4月中に公開予定の講義編②と③でご紹介します)
1.ガスとIHの違い
2.食品にあわせて選ぶ加熱方法
3.オーブンレンジについて
4.直火焼きについて
5.蒸し料理について
現在よく使われている熱源には、ガスコンロとIHヒーターのふたつがあります。まずはそのふたつについてお話したいと思います。
ガスコンロとIHヒーターの違いについては、さまざまな意見がありました。ガス関係の企業の方は「長く使われているガスが一番」といい、電気関係の企業の方は「これからの時代はIHだ」と話すため、多くの方が判断に迷われていました。そこで、ガスコンロとIHヒーターには本当に差があるのか、差があるとしたら、それはどのように使ったらなくなるのかを研究しよう、ということで、多数の研究室の方々が集まりました。研究を行ったのはメーカーなどに属さない「加熱調理研究委員会」の方々ですので、中立的な立場で結果がまとめられています。「加熱調理研究委員会」とは、40年以上続く「一般社団法人日本調理科学会」内の研究部門です。研究では、ガスコンロ、IHヒーターともに1種類ずつでは特徴がはっきりしないので、さまざまな種類のものを使いました。その研究によってわかったそれぞれの特徴を、詳しくご紹介します。
まずは、発熱についての違いです。
ガスコンロは、供給されるガスが燃えることで発熱します。その熱を、コンロの上の鍋やフライパンなどが受けるという仕組みです。ガスが燃焼すると排ガスが生じるのも、コンロだけの特徴です。発熱時に発生する炎の温度は非常に高く、一番高いところで1000℃〜1300℃くらいあるといわれています。炎が大きければ、その分大きなエネルギー、熱量を与えることができます。
IHヒーターはといいますと、こちらは電気を使って発熱をします。IHヒーターは昭和30年代頃から売り出されていたのですが、その当時はサイズも大きく値段も高かったため、全く普及しませんでした。その後技術開発が進み、現在のように復旧するようになりましたが、最初に売り出されたときは「電磁調理器」という名前がつけられていました。その名前の通り、仕組みとしてはまずトッププレートがあり、その下にドーナツ型の磁力発生コイルというものがあります。そのコイルに電流が流れると磁力線がでて、プレートの上に乗せた鍋などに熱が伝わり、その鍋が発熱するのです。
ガスコンロは、ガスが燃えたところが発熱し、鍋などがその熱を受けて中の食品に熱を伝えます。それに対して、IHヒーターは、コイルが直接発熱するわけではなく磁力線が出るだけです。その磁力線が鍋の底に当たると鍋の底で電流の渦ができ、その影響で鍋自体が発熱するという仕組みです。
IHヒーターの場合は、使用する調理器具が発熱素材でつくられている必要があるため、注意が必要です。とはいっても、最近ではIH対応のものも増えてきています。たとえば、アルミニウムでつくられた調理器具はIHヒーターでは発熱しないため、アルミニウムにフッ素樹脂をコーティングしたテフロン加工といわれるものは、IHヒーターでは使えません。ですが、アルミニウムの中に鉄の板やステンレスを埋め込むことで、発熱するようになります。そのように工夫されたものが、IH対応といわれています。
このように、調理器具によって使えるものと使えないものがあるというのが、IHヒーターの特徴のひとつとしてあげられます。ですが、IHヒーターは電気を利用して発熱させるので排気ガスが出ずとてもクリーンです。また、トッププレートが平らなのですーっと拭けて掃除がしやすいというのも大きな特徴だと思います。
IHヒーターが導入されたとき、「どうもIHは遅くて……」という話をよく聞きました。日本の普通の家庭の電圧が100Vだったため、それだと少し出力が足りないということが研究の結果でわかりました。一定量のお湯を一定のお鍋で沸かしたときのお湯の上昇速度を測定したところ、ガスコンロとIHヒーターでは差がありました。ガスコンロでは、主に弱火・中火・強火の3段階で火力をコントロールしますが、この「強火」と同じくらいの速度でIHヒーターでお湯を沸かそうとすると、100Vの電圧では足りません。200Vの電圧で「強火」と同じくらいだといわれています。100Vの電圧では、電力でいうと1200Wほどしか使えず、それをガスコンロに置き換えると中火程度になります。IHヒーターで強火と同じように出力するには、2000Wくらいは必要で、200Vの電圧が必要だということになります。
「ガスとIHでは、どうも同じように仕上がらない」というコックさんもいらっしゃいますが、それは鍋底の温度分布が違うからだといえます。サーモビューアーという赤外線を利用して、鍋底の温度の分布を調べました。サーモビューアーは、温度の変化を色分けして可視化してくれるもので、温度が高いと赤くなり温度が低い部分は青くなります。
まず3mmほどの非常に厚いフライパンで比較してみると、ガスコンロでは若干ですが鍋底の色に均一性がありました。IHヒーターの方は、少しドーナツ型に赤くなりました。なぜかというと、IHヒーターは磁気発生コイルがドーナツ型になっていて、そこから磁力線が出てその上で発熱が起きるため、磁力線の上以外のところは温度があがりにくいという性質があるからです。それに比べてガスコンロは、炎が広がるので広い範囲で温度が上がります。ただ、炎のあたるところとあたらないところで温度の差はでてきます。
次に、薄いフライパンを使って比較してみました。
IHヒーターでホットケーキなどを焼くとドーナツ型に焦げがつきましたが、ガスコンロでは比較的そのような焦げができにくいといえます。IHヒーターでそれを防ぐには、フライパンを少しずつ横にずらしながら焼くのがいいと思います。というのも、一般的なIHヒーターは、フライパンを熱源から離すと電源が切れ加熱が中断されます。なので、熱源にフライパンをつけたまま横に動かすということが必要となります。現在は、熱源から離しても大丈夫なIHヒーターも開発されていますが、そうでないものは鍋振りができません。鍋を振った途端に、加熱が中断されてしまいます。また、薄い鍋でシチューのような粘り気のあるものを加熱したときの焦げつき方を見てみたところ、やはり、よくいわれるようにIHヒーターは局所的に発熱するため、焦げつきが起こりやすいことがわかりました。
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